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眼之大事と『五輪書』/(武術・武道)

2020年 02月20日 01:02 (木)

 一般的に、人は怒りの感情にかられ、その感情がコントロール不能にまで高まると、無意識のうちに目を見ひらくことが多い。

 そして、怒りで目を大きく見ひらいている時は、多くの場合、頭がやや後方に反って顎が前て、顔を突き出すような姿勢になる。

 このような表情は、一見たいへんに怖ろし気に見えるのだが、武術的には非常によろしくない。

 なぜなら、見開いた大きな目には指先などの当身やホコリなどの異物が入りやすくなるし、首が後ろに反って突き出た顎は、ショートフックなどの打撃の恰好の目標になるからだ。

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▲目を見開いて顎を突き出し、顔を近づけて威嚇してくるオッカナイ人(笑)には、ショートフックが効果的。コツとしては、顎ではなく耳の下あたりを狙い、肘を上げずに短く鋭く腰を使ってナックルパートを当て、そして振り抜くこと。空手家であれば同様なボディワークで、振り突きや振り猿臂を使ってもいい



 今更言うまでもない事だが、空手の組手や撃剣の試合などで、目をクワっと見開いて相手に打ちかかってくる人は、多分、シロウトさんでもあまりいないだろう。

 つまり、怒りの顔色で目を見開いて脅してくるような人は、武術や武道、格闘技などの心得の無い相手である蓋然性が高いというわけだ。

(ただし、世の中の事象には常に「例外」というものがあるので、「絶対に」ではないことには注意が必要である)

 一方で、顎を引いた上目遣いで、目を細めてにらみつけてくる相手というのは、それなりに喧嘩慣れしていると判断できる。

 ま、一番怖いのは、ニコニコしながら近づいてきて、グサッとひと突きしてくるような人なんだけれどもね(笑)。



 では武術・武道人たるもの、有事の際にはどのような「目」で対するのが良いのか?

 こうした戦闘のイロハについて、時代や流儀の垣根を越えて参考になるのが、宮本武蔵が書いた戦闘教範である『五輪書』だ。

 同書水の巻には、「兵法の身なりの事」として、次のように書かれている。


「顔はうつむかず、あをのかず、かたむかず、ひずます、目をみださず、ひたいにしわをよせず、まゆあいにしわをよせて、目の玉うごかざるやうにして、またゝきをせぬやうにおもひて、目をすこしすくめるやうにして、うらやかに見ゆるかを(顔)、鼻すじ直(すぐ)にして、少しおとがいを出す心なり」(岩波文庫『五輪書』より)


 ようするに、顎を引いて上丹田(眉間)に意識を集め、目を細めるようにして見よ、ということだ。

 思うに、武蔵の『五輪書』ほど、具体的で分かりやすく、しかも流儀の垣根を越えて参考になる剣客向けの戦闘マニュアルというのは、古今、無いだろう。

 例えば体当たりのコツを教える「身のあたりといふ事」や、突きの効用を教える「おもてをさすといふ事」「心をさすといふ事」、受けと打ち込みの拍子の大事を教える「かつとつといふ事」などは、柳剛流の備之伝や剣術の組太刀においても、たいへんに参考になるものだ。

 誤解を恐れずに言えば、形のポイントを記した水の巻「五つのおもての次第」を除けば、それ以外の『五輪書』のすべての教えは、他流の剣術者にとっても極めて実用的かつ具体的、そして有用な実践マニュアルになっているといえよう。

 さらに『五輪書』の素晴らしいとところは、言語では解説できない事については、

「コトバではうまく伝わらないので、稽古を通じて体得し、自分なりに工夫をしてみなさいね」

 と、明快に諭している点にある。

 こうした極めて明晰で合理的な身体と言語の感覚を持っていたというのが、宮本武蔵という剣客の「天才」であろうと私は思う。

1712_五輪書
▲377年前に書かれたとは思えない、明快で論理的・合理的な剣術戦闘マニュアル

 (了)
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