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柳剛流・南部師範家における「備之伝」の謎/(柳剛流)

2018年 05月23日 15:50 (水)

 過日、『増補・改訂 宮城県 角田地方と柳剛流剣術-日本剣道史に残る郷土の足跡-』の著者である南部修哉さんから、柳剛流に関する史料として、新たに発見された「柳剛流剣術切紙巻」のコピーをいただいた。

 柳剛流に関する、こうした皆さんからの善意の情報提供は、市井のいち修行人である私としては、本当にありがたく感謝の思いもひとしおである。



 さて、この切紙は仙台藩角田伝 柳剛流の中でも、岡田(一條)左馬輔~斎藤数衛~泉冨次と続く系統とは別に、岡田左馬輔~三芳久馬~佐藤彌一郎に受け継がれた系統のものであり、南部豊之助が明治35(1902)年に、高橋彌一に伝授したものだ。

 南部豊之助は、万延元(1860)年に生まれ、柳剛流剣術のほかにも竹内流の柔や八条流の馬術も修め、家塾を開いてこれらの武芸を地元の子弟に教授。明治38(1905)年から明治45(1912)年までは、旧制角田中学校の剣術師範も務めた柳剛流師範家である。

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 伝書の内容をみると、前文から始まり次いで「備之伝」、その後に剣術の形は「右剣」「左剣」「風心刀」の3本、居合は「向一文字」「右行」「左行」「後詰」「切上」の5本となっている。

 切紙において、剣術の形に「右剣」と「左剣」のほか「風心刀」が加えられているのは、武州や江戸の柳剛流師範家の伝書でも、時折みられるものだ。

 突杖は「突枝」と表記されており、形名は「ハジキ」「ハズシ」「右留」「左留」「抜留」の5本となる。

 突杖を「突枝」と誤記しているケースもまた、数多くの柳剛流師範家伝書でみられるものである。

 次いで二首の武道歌、

 「切り結ぶ太刀の下こそ地獄なり
                踏み込んでみよ極楽もある」

 「平日に咄しするとも真剣と
             思うて言葉大事とそしれ」


 が記され、後文、そして流祖からの伝系、伝授者と被伝授者の氏名となっている。


 このように、本伝書は柳剛流の切紙としては、最も典型的な形式のものとなっているのだが、注目したいのは「備之伝」の記述についてだ。

 柳剛流の「備之伝」は、剣術の攻防における構え方の教えであり、上段から左車まで合計15の構えで構成されるのが一般的である。

 その上で、一部師範家の伝書では、記されている構えの数が15よりも減っているものも散見される。

 ところが、この南部豊之助が発行した切紙では、なんと構えが17種と、通常よりも2つも多く記載されているのだ。

 具体的には、通常の15種の構えに加えて、「浦上段」と「右足」という2つが加えられている。

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 私がこれまで確認してきた柳剛流各師範家の切紙では、「備之伝」において構えの数が15種よりも省略されて少なくなっているものはいくつか目にしたことがあるのだが、逆に数が増えているというのは、今回初めて拝見した次第である。

 柳剛流では、切紙に次ぐ目録伝授の際に、「備之伝」の15の構えそれぞれに対応する口伝である「備十五ヶ条フセギ秘伝」が伝授される。

 このため、今回の伝書のように「備之伝」の構えが通常よりも2つ増えて十七ヶ条であるということは、目録で伝授される「フセギ秘伝」についても、南部豊之助の系統では十五ヶ条ではなく、十七ヶ条になっていたということであろうか・・・・・・?

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 現在、柳剛流剣術の「備之伝」を伝承しているのは、私たち国際水月塾武術協会の仙台藩角田伝 柳剛流のほかには、三重県の三村幸夫先生が継承されていらっしゃる紀州藩田丸伝 柳剛流のみであると思われる。

 手元の資料等を確認すると、紀州藩田丸伝 柳剛流においても、「備之伝」は上段から左車までの15種であり、それぞれの構えの名称も、一部漢字の表記が異なる以外、仙台藩角田伝と同じである。

(実技としての構え方そのものも、田丸伝と角田伝で同じかどうかについては、私は田丸伝の「備之伝」を拝見したことがないため分からない)

 となると、南部豊之助が伝えた「浦上段」と「右足」という構えがどのようなものであったのかは、南部豊之助の系統の柳剛流が途絶えてしまっていることから、当時の手控えなどが発見されない限り、今となっては確認のしようがない。

 柳剛流を稽古する者として、この2つの構えの実態について興味は尽きないが、謎は深まるばかりである・・・・・・。

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▲翠月庵門下による、柳剛流の「備之伝」と「備十五ヶ条フセギ秘伝」の稽古



■引用・参考文献
『増補・改訂 宮城県 角田地方と柳剛流剣術-日本剣道史に残る郷土の足跡-』/南部修哉 著/私家版/2016年

 (了)
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