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演武小考/(武術・武道)

2018年 03月02日 11:58 (金)

 3月、弥生である。いよいよ、春だ。

 春は、私にとっては演武の季節である。

 4月には苗木城武術演武会(岐阜県)、5月には富士北口諏訪明神社奉納演武会(山梨県)と松代藩文武学校武道会武術武芸会(長野県)がある。

 私が参加する武術の演武会は、上記以外には、秋にもう1度行われる松代藩文武学校武道会武術武芸会のみで、合計して年間4回である。

 上記演武会は全て翠月庵の稽古場がある埼玉県外での開催なので、できれば年に1回くらいは埼玉県内で何がしかの演武を行いたいとは思うのであるが、いまのところ、その「場」と「機会」がない状態だ。

 年にたった4回の演武だが、私としてはこれくらいがちょうどよいのかなとも思っている。

 私にとって武芸の演武は、神前での奉納にしても、観覧者向けのものであっても、心法の在り様は「真剣勝負」だと捉えている。

 ゆえに、演武に向けては万全の調整をした上で、形而上・下いずれにおいても、その時の自分が発揮できる最高の業前を披露できるよう心掛けている。

 だからこそ演武修了後の心身の消耗はなかなかなもので、それを年に10回も15回も、あたかも興行のようにこなすことは到底無理だ。



 これまで何度か、公開の場で外国人を中心とした観光客を対象にした、手裏剣術や剣術の演武と体験のための指導をしてくれないか、という依頼がきたことがある。

 しかしいずれの場合も、 日本の伝統文化である武術の普及啓発というよりも、テーマパークの観光客向けチャンバラ・ニンジャショーといった趣きの営利目的であることが明白だったことから、丁重にお断りした。

 最近、外国人訪日客が激増する中、この手のショーやイベントが各地で増えているようだが、私個人としては、自分が心血を注いで研究・編纂・稽古してきた武術としての手裏剣術や、流祖・岡田惣右衛門から脈々と受け継がれてきた柳剛流の業を、そのような見世物まがいの金儲けのネタにするというのは、到底考えられない。

 仙台藩角田伝柳剛流では、「武術は暴を誅し乱を救う、仁義の具である」と諭している。

 あるいは、武州松田源吾伝の柳剛流では、「 武術之儀は国之護り」としている。

 そのような武芸を、物見遊山で飲み食いをしている人々の前で、見世物として披露し対価を得るというのは、流祖から我が師に至るまで、八代・二百有余年に渡って柳剛流を伝承してきた、歴代師範や流儀の先人たちへの冒涜以外の何ものでもないだろう。

 そもそも柳剛流の起請文には、「仮に親兄弟のためといえども、やたらに他見・他言すべからず」という誓いが記されており、営利目的での武技の公開というのはありえない事なのだ。



 ところで先日、国立劇場で近松の文楽『女殺油地獄』を鑑賞したのだが、それは私の観劇歴の中でも一二となるような最高のひと幕であった。

 文楽をはじめ、能・狂言、歌舞伎といった伝統芸能は、観客から金銭をいただいて磨きぬいた芸を披露するものである。

 ただし、そこには演者と観客との間に静かな緊張感と形而上での火花が散るような位取りがあり、加えて見る側に演者の技芸を賞翫できるだけの観の目と耳、そして伝統文化に対する深い敬意と理解があるからこそ成り立つ、芸術であり娯楽なのだ。

 一方で幇間芸からはじまった落語は、その出自からか、今でも飲食・酒席の場での芸の披露をいとわないが、それでも小三治や歌丸といった当代の名人クラスの高座や独演会で、主任の長講をワンカップ大関とあたりめを手にし、酔いころ加減で噺を聞くような剛毅な落語ファンは、あまりいないだろう。

(鈴本はまだ、客席で飲酒可だったっけ?)

 このように、他者に「観せる」「聴かせる」ことが前提の芸能でさえも、その披露の「場」には、彼我の(心地よい)緊張関係とたしなみ、気づかいが求められる。

 いわんや、本質的に人の死命を制する技芸であり、本来は他者に見せるべき「術」ではない武芸の演武では、より高いレベルでの厳しさと節度が求められるのは言うまでもない。



 ゆえに当庵は、興行のような営利目的での演武は行わないし、飲食・酒席の場での武技の披露などはしない。

 一方で、真摯に学び次代に向けて流儀を伝承していこうという志を持って門を叩く人には、術技と口伝を惜しむことなく伝授する次第である。

1709_松代演武_柳剛流長刀
▲柳剛流長刀(なぎなた)の演武 (打太刀:小佐野淳師 仕太刀:瀬沼健司)


 「道は秘するにあらず。秘するは、しらせむが為也」(兵法家伝書)


  (了)
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