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KGBとのタタカイ/(昔話)

2020年 05月19日 11:31 (火)

 1980年代後半、学校を出て最初に就職したのは警備会社だった。

 セコムか綜警か迷ったのだが、なんだかセコムの方がチャラい感じがしたので(爆)、綜合警備保障(最近は、アルソックとも呼びますな)に入社した。

 警備業を選んだのは、武道の腕が活かせるのではないかと考えたのと、将来、在外公館の警備官になれたらいいなあ・・・などと漠然と思っていたからである。

 入社後、自衛隊のレンジャー上がりの教官に「野鳥の精神」(綜警のモットー)を叩き込まれ、辛くキビシイ研修期間を終えて配属されたのは、某大手電機機器メーカー工場の施設警備隊であった。

 いわゆる、常駐警備である。

 常駐警備などというとなにやらものものしいが、ようは「守衛さん」だ。

 法律的には、常駐警備と守衛はいろいろと異なるのだけれど、実体は似たようなもんである。

 昼間は来客の受付、夜は工場の見回り、そして24時間勤務の終わりに警備日報をまとめ、工場の総務担当に提出する。

 日報に記載されるのは、

「〇月×日 灰皿未処理△件、〇〇工場・窓施錠未処理×件」

 といった、のどかな内容ばかり。

 事件も事故も起きない、血気盛んな若者にとっては単調で退屈な仕事であった。



 そんなある日、東京の本社からの緊急通達ということで、

「ソ連KGB関係者が、国内の電機機器メーカーを対象に、産業スパイ活動を活発化させているとのことなので、警戒を厳にせよ」

 とかいう連絡があった。

(平成生まれの皆さんはご存じないかもしれませんが、昔むかしソビエト連邦(ソ連)という国がありましてな。米国やその属国である日本と対立していたのですよ。KGBというのは、そのソ連の情報機関、ようするにスパイというやつですわ)

 しかし、地方の工場を警備しているのんきな守衛さんたちに、KGBの産業スパイを相手に「警戒を厳にせよ」とか言われてもどうしようもない。

 なにしろKGBといえば、刀身を射出できる特殊武器のスペツナズ・ナイフとか、消音装置付きのトカレフとか、放射性物質入りの暗殺用注射器とか持ってるってんデスよ!

 ・・・ツゲ・ヒサヨシ大尉とか、ノビー・オチアイ先生の話によれば。

 一方で我々は、一発殴るだけですぐに曲がってしまうので、

「侵入盗などとの遭遇が予期される場合は、必ず旧来の木製警棒に持ち替えるように」

 と言われるほどチャチな、スチール製のノーベル社謹製特殊警棒しか持っていない、田舎の守衛さんなわけです。

「いったい、どうすればいいというのか・・・」

 と、まだクチバシの黄色かった私は、結構真剣に悩んだ。

2005_ドルフ・ラングレン
▲真夜中の工場内で、スペツナズ・ナイフやトカレフや放射性物質入りの注射器を持った、ドルフ・ラングレンのようなKGBのスパイが、鬼の形相で襲ってくる・・・(想像図)



 そこで警備隊のS隊長に話を聞くと、

「ま、何かあったら、110番するしかないだろう」

 と、身も蓋もない答えが・・・。

 とはいえ、スマホはおろかガラケーさえ存在しない時代である。

 真夜中の巨大工場内で一人で巡回中に、スペツナズ・ナイフやトカレフや放射性物質入りの注射器を持ったドルフ・ラングレンのようなKGBのスパイに遭遇して追っかけられたら?

 どう考えても電話のあるところまでたどり着き、受話器を取って110番にかけるまで、無事に生きながらえる自信はない。

 というか、そもそも110番に電話して、

「今、KGBのスパイに襲われて、殺されそうなんです! 助けてください!!」

 とか言っても、多分、本気にしてくれないだろうよ。

 ・・・とまあ、今考えると昭和~平成初期というのは、頭のおかしな、ある意味でバカげた、能天気な時代だったなあと、しみじみ思う(笑)。



 結局、我々T電機警備隊が、ドルフ・ラングレンのようなKGBの凄腕エージェントと遭遇するような事案は発生せず、その後も引き続き守衛さんとしての退屈で単調な時が流れ、私は3年後に会社を退職。

 勇躍、アラスカ・ユーコン河へのひとり旅に向かうのだが、それはまた別のお話だ。

 この警備員時代のKGB騒動は、今でも時々夢にみてうなされる、20世紀も終わり近くの、オソロシクもバカバカしい思い出である(苦笑)。

2005_警備員時代
▲警備隊着任1年目。我ながら、凛々しく初々しい。それが30数年後、ただのだらしない売文稼業の酔っ払いになってしまうとは、神のみぞ知る未来予想図・・・

(おしまい)